若女将コラム

日々西屋と山を駆け巡る湯守兼女将による、自由奔放すぎるコラム改めエッセーコーナーです。
人生は奇想天外に生き抜こう。趣味のことや日々思う事etc...ほぼ西屋に関係ない話題ばかり載せています。

海辺の「開眼」

♪海は広いな大きいな。月は昇るし日は沈む。
実に見たまんまの歌詞。好きだなぁ、このピュアな感性。
今でも小学校では歌われているのかな?





お薬師堂に続く森の小径。
山です。白布温泉です。私の好きな場所。
しかしこうして長いこと山暮らしをしていると、何の反動か、
時々無性に海を見に行きたくなることがあります。
まあ、行ったところで別に何をするわけではありません。
ただ景色を眺め、海岸を歩くだけでいい。
たとえば大洗海岸の神磯鳥居。
いつか行きたいな。
きっと違う景色に、沈む心も晴れ上がるに違いない。

当たり前ですが、水平線の遥か彼方には他所の国々が存在しています。
海を隔てていようが、世界に壁はない。
人、経済、環境…これらは常に一つの生き物のように動いています。
見方よっては、私達は存外小さな箱庭の中で暮らしている、
といえるのかもしれません。



(最近海見ていないなぁ…。京都からの帰途、仙台空港着陸
直前に飛行機から見た太平洋が直近の海風景でした↑)



「なぜロシアはウクライナを侵攻したの?」


ある日、娘からだしぬけに放たれた一つの質問から、
今日の話は始まります。

突然の侵攻から5ヶ月あまり経ちました。
最初こそ、爆撃で破壊される街や、怪我をした市民が逃げ惑う
悲惨な映像がが生々しく映し出されていましたが、今はどこか
霞がかかった別の世界の出来事のように、ニュースの主たる
話題から一歩遠ざかっています。

もともとロシアと国境線を挟んだ近隣国との関係は、歴史的に
見てもかなり複雑です。戦火のきっかけはそれこそ諸説ありますし、
さて、どうやって説明したものか。

土地続きで昔から民族間の対立があったこと、NATOにウクライナが
加入するのをロシア側が武力で阻止しようとしたこと、
ロシアが自国の影響力を武器に、間接的に諸外国を「兵糧攻め」に
して世界的な混乱を起こす→発言力を高める狙いもあったかも
しれないなど。いずれにせよ、今回の侵攻による影響は世界中を
駆け巡り、特に日本では物の値段が上がって大問題になっている
ということも、私は娘に伝えました。

「なんで物価が上がるわけ?」


即座に跳ね返ってくる疑問ブーメラン。
日本から地理的にも遠く離れた国同士の争いが、巡り巡って「物価上昇」
という形で日本に影響を及ぼすなど、そりゃなんでって思うわな。
まさに風が吹けば桶屋が儲かる、の悪いパターン。
子供にはまだ難しいかもしれない。そこで私はこう説明しました。


「ロシアは国連加盟国の中でもで常任理事国に名を連ねる、
世界的にも影響力を持つ大国の一つ。そして、決して裕福では
ないけれど肥沃な土地を持ち、特に欧州向けの小麦生産量が多い
農業大国のウクライナ。この両国が戦を始めたせいで、
絶妙なバランスで保たれていた世界の貿易や経済事情に大きな
影響を与えたわけだ。一番大きいのは物流が一気に滞ったこと。
治安の悪いルートは使えない上、場所によって物を運ぶのに
命懸けになってしまった。当然輸送費が跳ね上がるわけね。
日本は元々自国の資源に乏しいから、昔から食料やその他諸々
海外からの輸入に頼ってきた。
そこにこの戦。さぁどうなる。
当然輸送費上昇の影響をもろに喰らうね。まずこれが理由の一つ。

もう一つは、必要な資源や食料といった物資そのものが
手に入りにくくなっちゃったこと。
今回のウクライナ侵攻で、日本含めて世界各国はロシアに抗議した。
「なにやってんだよ止めろ」って。
一方的に他国を責めるなんて、人道的にやっちゃいけないこと。
諫めるのは当然だよね。
ところがロシアは、その仕返しにと日本や諸外国への輸出を厳しく
制限した。それどころかロシアと仲のいい中国まで、なぜか日本へ
圧力をかけてその関係が悪化した。日中関係は元々あんまり
良好じゃなかったし、グッドタイミングとばかり絡んできたわけ。
『私(中国)の友達(ロシア)を敵に回すなら、
私もアンタ(日本)の敵よ』
ざっくり例えると↑こんか感じ。まるで小学生の喧嘩だね。
大の大人がやるこっちゃない。

さて話を戻そう。

ロシアと中国、この両国から日本が輸入していた物資は、
場所が近いこともあってそれこそ多岐にわたっている。
燃料から、食料から、世界的に不足している半導体(原料を含む)
から諸々…そうそう原油(ガソリン)も。
それらの物資がことごとく入手しにくくなれば、どうなる?
当然値段は上がるわな。野菜も天候異常で不作になると
値段が上がるでしょ。それと同じと考えてね。

さらにはコロナ。ああもうコイツだよこいつ。
この厄介すぎる問題が未解決のまま現在進行形な上に、
最近になってこれまた新規感染者が増えたとニュースで騒がれて、
状況が悪化している。そもそもコロナのせいで経済状況が
おかしくなっていたから、もはやダブルパンチね。
これらをひっくるめてよけいに物価がはね上がっているわけだ。

こうなればもう頼みの綱は我が国の政府。
政府が何とかして国民の生活を守って下さいよって話になる。
ところがどっこい、肝心の日本の経済政策が上手くいってない。
そのせいで日本人の生活水準は他の国に比べて全く上昇の兆しが
ないまま何十年も経過していて、少子高齢化も進んで、経済力が
他国と比べて相対的にどんどん落っこちているときた。
先行きが見えないまま、そうして今に至るというわけよ。
というわけで、かなり粗削りな説明だったけどOK?」

うむ。ヤバいってことが凡そは伝わったらしい。

「じゃあどうして日本人は平和ボケと言われるの?」

…おお、今度はそうきたか。
よっしゃ、とことん付き合うか。


「…つい最近のことだ。元首相の安倍さんが
凶弾に倒れたショッキングなニュースがあったね。
海外の人たちは、あの瞬間の動画を見て心底驚いたそうだよ。
『なぜ銃声が聞こえたのにその場の誰も逃げ出さなかったのか?』
って。もしこれが海外で起きていた事件だったら、
一発音が鳴っただけで大衆は一目散にその場から逃げ出すそうだ。
それが発する音が、日常のすぐそばにあるもので、かつ命を即座に
刈り取る凶器だと本能的に理解しているから。
ところが日本は銃が厳しく規制されている国だから、
銃への耐性がない。そもそも銃は社会に存在しないというのが
日本の常識だから、まさかあの真っ昼間の人通りが多い駅前で、
VIPに向かって堂々と銃をぶっ放す気狂いがいるなんて、
普通の日本人は即座に認識できるわけがない。
あの日あの場の誰もが、きっと何が起きたのか分からなかったんじゃ
ないかな。銃でなく、花火か何かが破裂したような感覚でいたんじゃ
ないかな。だから、至近距離で発砲音がしたのに、ヤバいヤツが
明らかに真後ろで銃口を向けていたのに、本人すら終ぞ逃げなかった。

…そして悲劇は起きた。

よいか娘。
地球儀を見れば分かるね。
大陸にある国の多くは、国境を歩いて跨ぐことができる。
海辺の国もあるっちゃあるけど、主たる国の殆んどが、ロシアと
ウクライナのように隣の家が即隣の国、そんな関係なんだわ。
どんな暮らしをしているのか、どっちがより豊かか、
お互いに何が起きているのかすぐに見えるし、言葉だって
大きな違いはないから、国境線に関係なく民族が入り乱れている。
仲良くしている国同士もあるけれど、国土の大きさは豊かさの
バロメーターの一つでもあるから、歴史的には
「いつ獲るか獲られるか」の関係になることが多いのだよ。

さらには互いの力関係によって国境線が容易く動く。政(まつりごと)の
トップは、いつだって戦争おっぱじめる理由にもっともな大義を
掲げているけど、要はただの奪い合い、殺し合いだからね。
別に頭いい事をやっているわけじゃない。
せいぜいサルの群れ同士の縄張り争いと同レベル、とでも思ってて。
ともあれ陸続きの国境線では、土地や自分達の存在を巡ってそういう
深刻な諍いになりやすいんだよ。ロシアだけじゃない。
中東も、アフリカも、アメリカ大陸も、地上のどこもかしこも、
歴史上常に数えきれないほど争いが起きている。もちろん今も。


一方日本は島国で、四方を海にガッツリ守られている。
隣の国とは言っても船か飛行機を使わなければ辿り着くことはできない。
歴史上では幾度か大陸からの侵攻の危機に見舞われたけど、そのたびに
海が日本を守った。元寇の神風のように。
海…もとい自然の地形が日本の国境を、民族を守ってくれたわけよ。
島国は数あれど、歴史上一度も他国の支配をうけなかった日本のような
国は極めて稀なんだ。
さらに日本人は元々経済的にも貧富の差が比較的少なくて
(最近はかなりなペースで2極化しつつあるというが)、
一般社会はいたって平穏。例えば大きな災害が起きて自身の生活が
脅かされても、決して配給の列を乱したり略奪をはたらいたりはしない。
基本的に譲り合い、整然と秩序だって暮らしている。

確かに、海外からしたら平和ボケに見えるのかもしれない。
でも、日本人のそれは決して悪いことではないとお母ちゃんは思う。
なんだかんだ日本が平和であるおかげで、お兄ちゃんは徴兵される
ことなどないし、コロナコロナ言っていながらも、命が脅かされる
心配をすることなく、緊張を解いて外に出かけることができる。
これは十分感謝すべきことなのだ。


しかし娘。
守られているということは、
即ち「見えなくなる」ということでもあるのだ。

冒頭に書いた通り、『海を隔てていようが、世界に壁はない』。
日本の文化・常識とはおよそ異なる他所の国だが、海の向こうで
立ったさざ波は、何かしらの形で必ず日本に影響を及ぼしてくる。
今回の物価上昇のように。
そういう外の世界を知らず、狭いコミュニティの中で生涯を終える
暮らしもアリだろう。例えば西屋なんか海どころか山からも
守られちゃってる。このまま細々商売を続けるも、また一つの人生。
否定はしない。

しかし、これまた何度でも言おう。世界は広い。
国境というブラインドを上げて敢えて他所を知り、なんならその目で、
足で他国を実体験することで、違う価値観や生き方、全く新しい景色や
人に出会うことができる。
尤(もっと)も、今のように便利な情報社会であれば、何も実際海を
越える必要はない。もちろん直接行けりゃ尚可だが、文明の利器を
使いこなせれば、いくらでも正しく学びようがある。

世界で何が今起きているのかを自ら知ろうとすることは、
巡り巡って己自身を守ることに繋がる。
いつか自分が大人になって、人生の道中で迷った時、
世界の知識・常識が思いがけず助けになることもあるだろうから。

その時は、世の中が今より少しでも平和であることを
お母さんは祈っているよ。
え?お母さんこそくたばるな??
もちろん長生きするさ。

だからよいかね、
遠く離れなくても、守られたままでもいい。
眼をよく開いて、娘よ、世界を学びなさい。

そして心から誇れ。自分が日本人であることを!


今日の2曲 

"Asian Sea"

Wong Wing Tsan(黄永燦)"Fragrance"(1989)


(↑Youtubeで視聴!)

中国系イギリス人(日本人クォーター)のピアニスト、
ウォン・ウィンツァンのアルバムから。
曲のタイトルが今日の話題にぴったりだったのでチョイス。
ヒーリング系ピアノ曲を集めたコンピレーション・アルバムにも
よく収録されるので、聴いた方もいらっしゃるかと思います。
ひたすら癒されます。静かに波が打ち寄せる、
あたたかい春の海辺のようなやさしい曲です。


"La mer"  L.109 

Debussy / Simon Rattle & Berliner Philharmoniker (2005)


(↑ラトル&ベルリンフィルがなかったので指揮者カラヤンver.で
お届け。ラトルver.よりやや大人しめの仕上がりです。)


海つながりでもういっちょ。
ご存じドビュッシーの組曲「海」。波の打ち寄せる様や水しぶき、
夜明けの眩い朝日など、表情豊かな海の情景を壮大に描いた、
クラシックきっての名曲です。
初版のフルスコアには、かの葛飾北斎の「富嶽三十六景~神奈川沖浪裏~」
が描かれたことでも知られております。wikiで見てみて。
(表紙になっただけで作曲のモチーフになったわけではないようですが。)
芸術はいいな。
いついかなる時も、海という国境を平和の裡に容易く越えてしまえる。
私も何かを作ったりできたらいいのにな…。
有名な曲なのでアルバムはたくさんありますが、
今回は王道のラトル&ベルリンフィルコンビを選びました。

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