若女将コラム

日々西屋と山を駆け巡る湯守兼女将による、自由奔放すぎるコラム改めエッセーコーナーです。
人生は奇想天外に生き抜こう。趣味のことや日々思う事etc...ほぼ100%西屋に関係ない話題を思いつくまま載せています。

愛すべき師匠。



『師匠!うちの風呂場にルルイエが!!』




当コラムでも話題に取り上げた7月の湯桝工事。
お湯を完全に堰き止めて作業しましたので、当然湯滝風呂も数日間
温泉が流れず、そこには異様なほどの静けさが満ちていました。



白布温泉は自然湧出の温泉です。人為的に流れを止めることはできません。
湯量も莫大で、たとえ掃除で栓をMAX抜こうとも、常に湯量が流出量を
上回っており、浴槽の底が丸見えになることはほぼありえません。
ゆえにこれは数年に一度も観ることができない貴重な光景です。



色といい素材といいまるで遺跡。
大きな御影石のパーツがそれぞれぴったり嵌っているのが分かります。
300年以上休みなく激しい量の温泉を受け続けてなお現役なのだから、
当時建造に携わった職人さんの技術の高さが伺えます。

よく誤解されますが、色が黒いのは何センチも積もって固まった
温泉の成分です。ストロマトライトだと思ってくれ(違)。

・・・

そんな西屋のお風呂を毎日デッキブラシでゴシゴシ磨きあげ、
源泉や水回りの管理も含め半世紀近くにわたって一手に
担ってきたのが、番頭の倉ちゃんです。



本名倉吉。御歳81歳。
西屋先代からの愛称が倉ちゃん。老いも若きもみんな倉ちゃん呼び。
他でもない、私の湯守師匠です。

倉ちゃんは西屋家の先祖の出身地でもある関は小白布在住。
一言で表すと「食えないジイちゃん(いい意味で)」。

とにかくマイペースで、距離感がおかしくなるほど人懐こい性格です。
生粋の小白布弁使いのため訛りがキツく、実はコミュニケーションを
とるのは一苦労。なのに、ひょっこり会話に混ざってきたかと思ったら
それこそいきなりボケをかましてきてくれるので、誰もツッコんで
あげられない(から自分でツッコんでは楽しそうに笑っている)という、
ある意味すごくすごーく貴重なタイプです。
お互いに会話がズッコケるってどうよ。

かと思えば、たまにしれっと女物の服を着て仕事に来たりします。
曰く、「タンス漁ってたら出てきた」。
いや待てそれどう考えても奥さんのだろう。
ラメが入ったカーディガン着てきた時はさすがにどうしようかと思ったわ。
それこそツッコみどころ満載なのですが、「なに、まだ着られっドレ」
と真面目にニコニコ返されちゃえば何も言えまい。
(ちなみに↑の写真で身に着けているズボンも、前ポッケに小花の刺繡が
入っています。フツーに似合っている…。)

またあるときは、緩くなったズボンのベルト代わりに
「まだ使える」というただそれだけの理由で、壊れたカバンの
肩紐、果ては自転車のチューブまで巻いて来たこともありました。
要は勿体ない精神の鑑なのだ倉ちゃんは。
なぜか腹回りにかけての装備が半端ない。イカしてんね!と声をかければ
「拾いモンだぁ」とあっさりタネ明かししてくれ、それをちっとも
恥ずかしいことだと思っていない。
時々上にはみ出る腹巻がどう見てもバ〇ボンのパパ。
ちぐはぐだよ倉ちゃん!!!さてはその腹巻に括り付けたずり落ち防止の
紐も、この間ぶっちゃいたシーツだな(笑)!!

…なのに、これら全部ひっくるめてなお"何この可愛い生き物"。
…そう思えてしまう謎のビジュアル補正が毎度展開されるんだから
わけがわからん。その上「頑丈でいいんだぞぅ」と満面の笑みで
アイディアマンアピールされたら、あとはもうひたすらあたたかい目で
見守ってあげたくなっちゃう。

そんな愛すべき珍獣のような倉ちゃんですが、
毎日休館日以外は必ずお風呂を手際よくピカピカに掃除してくれます。



↑見て下さいな、この人懐こい笑顔。もうね、大好き。

「なんだオメー、俺の写真そがい撮って、アルバムでも作んなか?」
…いや作らんけど!



びしょぬれになるし、水圧もかかるしなかなか重労働にもかかわらず、
手際の良さは申し分なく、掃除後のお風呂はいつもピカピカ。



中庭を流れる排湯の通り道もデッキブラシでくまなく掃除してくれます。
慣れたものです。半世紀のキャリアは揺るぎません。

お掃除だけでなく、湯滝風呂の管理の仕方はもちろん、
温度の調整の仕方、館内の源泉の配管やら水回りの点検方法やら、
すべて倉ちゃんが伝授してくれました。地形に詳しく、力仕事から
ちょっとした修理から大工工事からなんでもこなせる倉ちゃんは
みんなから頼りにされてきました。

まだ湯守に慣れなかった頃、三十三観音の水が極端な少雨でピンチに
陥った時に一緒に現場に来てくれてたことがありました。困り果てた
私に倉ちゃんはホースや土管をかき集めてきて、いつもの調子で
「その辺の物何使っていいんだぁ」とのんびり宣いながら、あっという
間にあちこち継いで水不足を一気に解消してくれました。

その姿を見た瞬間、私は彼を「師匠」と仰ぐに至ったのでありました。
倉ちゃんの持てる経験と知識(と使えるものは拾って使え!魂)は
確かと私に引き継がれました。
彼無くして今の西屋の風呂(と野尻NA(笑))は存在しえません。

ご機嫌斜めでぶすくれることもあるけど、「元気出そうね」と大好物の
饅頭を渡しながら声をかけばたちまち喜んでくれたり、
普段着物を着ているのに「なんだ、オメカシしてどっかお出かけか?」と
すっとぼけてくれたり。無自覚なまま人の懐にすっと入ってきてくれます。
前世はきっとたくさんの人に愛された柴わんこに違いない。

正真正銘西屋のアイドル的存在です。

西屋のスタッフみんなに愛されている倉ちゃん。
私の大切な師匠。
これからもよろしくね☆






今日の一曲

"明けの方から"-「マヨヒガ」より

姫神(1995)

(リンク先はようつべへ!!)

個人的に倉ちゃんのテーマと言えばコレ。
「神々の詩」で大ヒットを飛ばした岩手発民族系ミュージシャン
姫神のアルバムから。姫神に詳しくなくても、昔々放送されていた
「日本全国各駅停車路線バスの旅」シリーズのBGMと言えば
「ああ、あんな感じの曲」と思い出してもらえるかもしれません。
シンセサイザーを巧みに取り入れ、どこか懐かしい民謡を思わせる
独特の旋律は、後の風の縄文シリーズに引き継がれていきました。
所々歌詞がよく分からないところも倉ちゃんぽくていい(笑)

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