若女将コラム

日々西屋と山を駆け巡る湯守兼女将による、自由奔放すぎるコラム改めエッセーコーナーです。
人生は奇想天外に生き抜こう。趣味のことや日々思う事etc...ほぼ100%西屋に関係ない話題を思いつくまま載せています。

衣替えは三次会の1か月半後だった ー『春の祭典』後編



爽やかすぎる雨上がりの白布(本日撮影)。
サムネのための枠とはいえ、
話題とのギャップまじぱない。



『春の祭典』~La Sacre du Printemps~後編

私が所属していたN大オケの常任指揮者T先生の自宅は、
山手線沿線のとあるアパートの一室にありました(今も元気かな)。
先輩後輩入り乱れて積もる話がついつい長引いて、いつの間にかそのまま
三次会にもつれ込んだのは分かる。分かるが、会場ここでいいんかい。
内心そう尋ねたかった。
しかしその場にいたメンバーの殆どが2年生以上だったので、私には
とてもツッコミを入れる勇気も断る度胸もありませんでした。
…まぁ、そもそも無理くり誘われたわけではなく、先輩方の面白過ぎる
四方山話をもう少し聞いていたくてついてきちゃった、というのが
正しいんですが…。

さて、お邪魔した中に女子や同学年がちらほらいたことに安堵しつつも、
慣れない雰囲気に飲み込まれないよう、私はほろ酔いの中じんわりと手に
汗握りながら、妙にビッグサイズのスピーカーから切れ間なく響いてくる
不気味な管弦楽曲にただただ必死で耳を傾けていました。
時には激しく、時に幽玄なその音色。
先輩は酒豪を自称しているだけあって、傍らで舌好調に演奏のポイントや
聴きどころをよどみなく解説してくれていました。
多分私内容を飲みきれなくて阿保面してたと思う。

そんなK先輩から何の前触れもなく変化球が飛んできたのは、
それから間もなくのことでした。

「〇〇(私の旧姓)、知ってるか?」
「エッ知りません」
「ここ(演奏)、エロいだろ?」
「…は」
「耳の穴かっぽじってよく聴いとけよ(←先輩の口癖)。」
「はぁ…」
「ウォルト・ディズニーの1940年の映画「ファンタジア」に、この曲を
独自解釈で映像化したパートがあるな」
「へぇ~そうなんすか知りませんでした」(次の瞬間デコピン食らう。)
「勉強不足め、今度観とけよ。4曲目だから」
「…ハイ(痛い…さすが映画通…)」

この辺で確か演奏は第二部も中盤過ぎに差し掛かっていました。
周囲には飲み潰れた他の先輩とサークル仲間、あとは真っ赤な顔で
少し離れたテーブルで何やら語り合っているグループが数人。
大丈夫、どこもかしこもとりあえず変な雰囲気じゃない(爆)。

先輩に直々につかまっていたので、真面目に演奏を聴いていたのは私だけ。
生贄となる乙女の賛辞、ちょっとおどろおどろしい先祖の召喚と儀式…
場面展開を示すサブタイトルは確かそんな感じだったはず。
私より10コ以上先輩方の定期の演奏、今でもはっきりと覚えています。
K先輩も楽器経験者なので演奏の腕はぴか一でしたが、大御所先輩の演奏も
セミプロかってくらいめちゃくちゃ上手い。彼らに追いつくのはさすがに
無理だとしても、いずれこんな感動的な演奏を自分も出来るように
なるのだろうか…とひとりでモヤモヤしていたら、

「このハルサイ(春の祭典のオケ愛称)の本当の中身はな…」
「はぁ…はい?」

突然先輩のトーンが下がったのに、ほんの少し話半分に聞いていた私は
反応がワンテンポ遅れました。
ふと先輩と目が合うと…ニタァ。
…あ、なんかヤな予感。
そして、その勘はだいたい忘れた頃に的中する。


「エロい長老たちが円座になってシカンする前で、異界の神と生贄の
乙女が祭壇上で死ぬまでxxxする話をまんまバレエにしたやつだから」

・・・( ゚д゚) ポカーン

突如落とされた爆弾に、モヤモヤが一瞬で消し飛びました。
なんかすごい単語も出たような気がするけど、初心者の処理能力がそれに
追い付くわけがありませんでした。
間違いなくさっき以上に阿保面晒した自信ある。

そこに、いつの間にこっち組に割り込んできたコントラバスのH先輩から
まさかの援護射撃が。

「ちなみに第1部は、長老が生贄の選考会やってる間ソイツ(神)が
草葉の陰で"イメージトレーニング"している場面な」

・・・(  Д ) ゚ ゚ 

瞬間、
私の中で勝手に構築していた「オーケストラ=優雅で純白の世界」は
真っ黒なビッグバンと共に粉々に破壊され、
かくして20数年にわたり無差別な膨張を続けるまま今日に至るのだった…


ちょっと(いや5割増しくらい)脚色してますが、当時のやり取りは
ほぼこんな異様なテンションでした。ほんのりオブラートに包んでいます。
それほど異常に覚えているのよ、あの日のことは。

春の祭典。
そう、これは本能のままに生命を謳い、人の祈りと神の愛とが混ざり合い、

あまつさえその命を貪ってしまうほどの、めくるめくリビドー炸裂の世界。
その世界を統べる異教の神の姿は、筋骨隆々の逞しい巨躯を上半身のみ
晒し(つまり半裸)、衣の代わりに光(智慧)と闇(本能)を身に纏い、
命を与えそして奪うことができる究極の美丈夫。
清濁併せ吞む異教の神は宣った。
歓喜のままに、こみ上げる情動ままに、無から有へ。
生きている今この瞬間をもっと解き放てと。

そして私は悟った。
終曲の打楽器は、知恵と本能が渾然一体となった生の滾りが、その一部と
ならんとする魂に深く刻み込まれる文字通り命の抽送(音)担当だと。

打楽器はただのタイコじゃないということですねK先輩!
それが言いたかったんですよね先輩!?!!
牛の鈴あり断頭台の鐘あり風の音ありビン転がしあり犬の鳴き声あり…
手(楽器)を変え品(曲)を変え、
果ては房事の効果音さえリアルにこなすとは!!!

なんかすごい。なんかすごい!!多分すごく曲解してるけど!!!

「先輩打楽器めっちゃヤバいっす…明日から練習マジ頑張ります」
頭の中が核融合反応したまま、多分そんなようなことを涙目で訴えながら、
半ば放心状態で三次会を後にしたのがあの日の最後の記憶。

懐かしい。
何もかも三次会のテンションにもっていかれそうなくらい懐かしい。

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K先輩。その後も難しい奏法やいろんな曲のこと人生譚に至るまで、
たくさん導き、叱咤し、語ってくれましたね。
志賀高原の合宿特訓や新日フィルの先生指導時は、あまりの厳しさに
一人ぼろ泣きしながら、恩に報いたく必死で練習しました。
不意打ちビッグバンのおかげでオケの思い出は今なお色鮮やかです。
ひたすら楽しく、時々ほろ苦い大学生活でした。
いつかまた会えたら美味しいお酒と共に思い出話に花を咲かせたいですね。
お土産は煙草で良いですか?
先輩は今もparliamentですか(てかあの銘柄今も現役なんだろーか)?
どうかお元気で。
親愛なる先輩へ。 畏(かしこ)。 

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『春の祭典』おススメの一枚

"Le Sacle du Printemps 1947 ver."
P.Boulez & The Cleveland Orchestra (1970)



ストラヴィンスキー本人とも親交があり、世界に名を馳せる指揮者・
作曲家の一人として今なお高く評価される故ピエール・ブーレーズと、
アメリカの5大オケの一つであるクリーヴランド管弦楽団の
ザ・ゴールデンコンビによる録音。当時45歳のブーレーズの脂の乗った
指揮捌きと、ドラマチックな演奏が隅々まで冴えわたるおススメの一枚です。
ストラヴィンスキーは自作の解釈と深化に拘る人だったようで、
作曲後も果敢に改訂を繰り返していました。収録のものは1947年版。
曲としてのバランスが最も優れているバージョンじゃないかな。

原典版により近いニュアンスを聴き比べてみたい時は、
ディズニーの「ファンタジア」を観てみてね。

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