音のある生活 28「聴くなよ?絶対聴くなよ?!」
祝:茅葺屋根修復7月25日完了!!
はるばる大内宿からおいで頂いた職人の皆さん本当にありがとうございました!
こんにちは。
G-Shock愛用歴もうじき20年の若女将です。
気が付けば私の身の回りは(仕事用に至っては服も)男物だらけです。
時々我に返ったように思い出してみるのですが、もしや脳内性別は男性寄り?
公私お構いなしに、もう何年もの間毎日愛用しているマイG↑。
(そして、今の季節重宝しているフレグランス…こちらも男性用)
見た目に違わず重量がありますが、今ではすっかり慣れました。
温泉や泥を容赦なく浴びる過酷な湯守仕事にもよく耐えてくれています。
一応私もおなごの端くれですから…
街中を歩く素敵な身なりの女性を見かけると、「あんな姿になれたらいいな」
と一瞬思うこともあります。…が、すぐに「自分には無理だ」と
諦めてしまいます。実は私、街着用の洋服を殆ど持っていません。
そもそも今時の流行がさっぱり分からないから、上から下まで雑誌でも
参考にあれこれ揃えなきゃと思うだけで億劫になってしまう。
強いて女らしい雰囲気を醸すとしたら手っ取り早い着物姿になるのが
せいぜいですが、私にとって着物はあくまで「普段着」または「正装」。
最も組み合わせが面倒なオシャレ着としての認識がすっぽり抜けています
(この時点でどこか感覚がズレている?)。
結局私用で外出するときはヨガかジム帰りと見まごう360度スポーティー系か、
夏でも露出度極小の怪しいダークカラーに身を固めてしまいます。特に後者。
目指すのはSTAR WARSのジェダイマスターや某RPGの黒魔導士っぽい
いかにもな姿。よっぽど自分らしくて(自分で自分に)好感持てる(笑)。
仕事中も着物以外はほぼ真っ黒な姿だし、日頃の服装や行動パターンからして、
私という人間の中身は男性寄りどころか9割以上暗黒面なのかもしれない。
パルパティーン狂喜。どこに行った女子心(笑)
でもこれでいいんだ!
大事なのは醸す湯気であって、
外付けハードディスクみたいな色気など私には必要ないのだーあ!
※
さて今日は相変わらず舌好調の「音のある生活」シリーズ。
前々回のコラムでチラっと
「SvartsinnのMørkets Variablerみたいな顔」と書きましたが、
それってどんな顔よ?という実にチャレンジャーな質問を頂きまして(ニヤニヤ)。
喜んでお答えするついでに、似たような雰囲気のアルバムをチョイスしてみました。
いわゆる「ダークアンビエント」とよばれる、極めてマニアックなジャンルです。
怪力ダチョウも回れ右全力ダッシュで逃げていくこと請け合い。
題して「 聴くなよ? 絶対聴くなよ?! 」(笑)
1.New Risen Throne
"Whispers of the Approaching Wastefullness"(2007)
(サムネイル↑をクリックするとYoutubeにリンクします)
日本語で「虚しさに誘う囁き」とでも訳せる、
New Risen Throneの1stアルバム。のっけから恐怖満載です。
聴きたくないわそんなもん!という健全な皆様のために分かりやすい例えを
挙げるなら、約20年前に大ヒットした映画「ブレアウィッチプロジェクト」。
いわく付きの森に入った主人公達3人に徐々に降りかかる底知れない恐怖と、
ショッキングな結末を観てしまった観衆の陰鬱な余韻をそのまま音に
変換した感じです。5曲目のAporrhetonでは、不気味なノイズをバックに
時折女性(もしかしてヘザー…)のすすり泣く声が聞こえます。コワー(棒)
全トラック約45分。あなたは最後まで耐えられるだろうか…。
2.Rovert Rich "Illumination"(2007)
(サムネイル↑クリックでEchoⅠが視聴できます)
1.と同じ2007年リリースのアルバム。
40年近いキャリアを持つアメリカ出身のロバート氏は、荒廃しつつも神秘を
湛えた静謐な雰囲気の曲作りが特徴ですが、このIlluminationはかなり異色。
神秘的なんですが、ゾクゾクするような畏怖に満ちたダークオーラ全開。
そのくせになるディープさは他のアルバムと一線を画しています。
全体イメージを例えるなら…非常に古い歴史を持つ寺院や教会など、
とりわけ神聖とされる建物(洞窟タイプだと尚可)の中で一人瞑想するうちに、
最奥の祭壇の影、神様の像の後ろ、あるいは湿気を含んだ土壁の向こうから、
正邪不明の何かが…外と内から同時に忍び寄ってくる…
よく言う「超常現象を見た」はたまた「臨死体験をした」、そんな感じ??
人類史上、世界各地で誕生したあまたの宗教。人々はその思想に忠実に
心の拠り所である社を建て、日々集いながら「清らかでありたい、穏やかな
世の中であってほしい」という現世での願いと、最大の畏怖である死後の
安寧を異口同音に祈ってきました。…しかし、現代もなお人の世に戦争や殺戮が
無くなることはなく、どんなに科学技術が発達しても、生命に等しく
訪れる死は避けられず、その先の世界はいまだ不透明なままです。
歴史を経た遺跡には、よくも悪しくもその年月だけ訪れた人間の敬虔な祈りと
悲しみ…そして一方で、心の弱さや、時に残酷な本性…欲望や怒り、憎しみ…
それさえも「神聖」の名のもとに暴き出し、混沌のうちに引き寄せてしまう
不可思議な引力があるといつも感じています。
清らかなるもの、未知なるものへの憧憬が強ければ強いほど、見えない闇もまた
色濃く寄り添ってくる。何かのきっかけによってその闇と対峙せざるを
得なくなった時、多くの場合人はそれを直視できず、依り代を描くように
“向こう”からもう一方の者…天使(あるいは悪魔)を無意識に召喚する…
出典:宮崎駿「風の谷のナウシカ」第6巻
(ここでいう闇や“彼ら”とは、ユング心理学でいうところの「普遍的無意識」に
よるものです。特定の宗教や思想を指し示すものではないのでご安心ください)
“彼ら”は深部からやってきた、人の心そのものを具現化したような存在です。
人を諫め、導きもするし、時には絶望(死に至る病)に誘うこともあります。
ひたすら現世で人心を惑わせる生霊が悪魔なら、現世と幽世を自在に行き交う
天使は見方によっては死霊(というと聞こえが悪いのですが、要は神様)の
使いともいえるかもしれません。
その表裏の関係が織りなす究極の神秘、トラック5「プラトンの洞窟」の
深遠な響きと囁きの彼方に心が目覚めた時、かつて自我(エゴ)の根底=
高次の世界に広がっていたイデアがあなたにも観えてくる…かもしれないYO!
という寄り道しまくりの解説でした。
…1時間11分。聴くなよ?と言っておきながらかなりおススメの一枚です(笑)
3.Gustaf Hildebrand "Starscape"(2004)
(サムネイル↑をクリックするとYoutubeで
Dead Transmissionsが視聴できます)
トラウマがくせになるBGM3枚目はこちら。
無機質な響きと意味深なタイトルがこれまた重苦しい絶望感を嫌というほど
掻き立ててくれます。実は今日ご紹介するアルバムの中では最も開放感がある
タイプです。(開放感のあるダークアンビエントって何(笑))
大友克洋の映画「Memories」をご存じでしょうか?
第1話「彼女の想いで」では、薔薇のような形の地場を持つ宇宙船の墓場
「サルガッソー」から発せられる謎のSOS信号に導かれ、スペースデブリ
処理を生業とする作業員たちが宇宙船に乗って救助に向かうわけですが、
そこでは既に故人である女優:エヴァのコンピューター・プログラムに
翻弄され、決して逃げられない蟻地獄のような恐怖を味わう…
そんな主人公たちのエピソードが描かれていました。
誰もいない宇宙船のはずなのに移動するSOS。
突如暗がりの天井から落ちてくる天使の人形とか超コワー(棒)。
Starscapeは、そんな主人公ハインツ達の悲劇からさらに200年後くらいの
サルガッソー(の中心の、無機質に“生きた”まま未だに犠牲者を憑り殺し続ける
幽霊コンピューター)みたいなアルバムなのよ…。全トラック45分。
興味のある方(いないと思いますが)ぜひ聴くなy…聴いてみてくださいネ。
4.Svartsinn "Mørkets Variabler" (2017)
(サムネイル↑をクリックすると…)
とうとう来ました今日の本命。
デスメタルが大好きな強面のお兄さんでも思わず「ジャケ絵が怖すぎで賞」を
贈りつけたくなるような身の毛のよだつ“何か”のご尊顔。
もう見ただけで中身推して知るべしでしょ?
Svartsinnはスウェーデンのロジャー・パターソンというミュージシャンによる
ソロプロジェクトですが、この人一体過去何があったの?と突っ込まずには
いられないそら恐ろしい作品を20年近く発表し続けています。
過去の作品、例えばDevouring Consciousnesnessはまだ聴きとれる旋律が
あって、わずかに人のぬくもりのような“色”を感じることができたのですが、
Mørkets~は終曲除いてどのトラックもこれ以上ないくらいどす黒い。
曲自体は激しくありませんが、これまで紹介したアルバムの尖がったところを
全て凝縮したような、憂鬱のどん底みたいな、不気味でいて荘厳な音の波動が
聴き始めて数分もしないうちにリスナーのメンタルを全力で破壊してきます。
Where No Other Can Follow(副題:悪魔のストーカー…)とか
夜道を一人で歩きながら聴いた日にゃ足がすくみます。ズーンと響く地鳴り
のような音に合わせ、聴きとれない言語で徐々にボルテージを上げながら多分
呪いの言葉(?)を囁かれ続ける約10分間。
だから聴くなって(爆)
でもこれが、何故かヨイ。ダイレクトにこちらを見透かしてくる闇の権化の
ような音世界にもかかわらず、妙に心が落ち着いてしまう。
今日紹介したアルバムの中では一番好きですね。
初期作のOf Darkness and Re-Creationもおススメ。
彼の曲を聴いて胎教にも似た深い癒しと、還ってきたような安心感?を
感じてしまったら、あなたも色々な意味でヤバいです。
全トラック1時間4分。
さぁ一緒に世界の終焉気分を味わいましょう?!。
※
いやぁ…今回は我ながら実にひどいコラムでした。
もはやここが旅館のHPの中だということを完全に無視しています(笑)
Svartsinnは「彼だけはここで紹介するのはやめとこう」とさえ思っていた
アーティストですし(爆)。でもどういうわけか好きなんです、たまらなく。
一見救いのないようなダークアンビエントの世界が。
善悪を超越した異次元のパワーみたいなのが魅力だし、性に合うのかな?
そのうちトビでなく本当にダースベイダーみたいな赤ライトセイバーや、
竿のように長い某武器やら振り回すようになるかもしれません(笑)
普段見ることのできない心の奥底に蠢く何かを、同じく抉るような感性で
強烈に具現化してしまえる彼らの強靭な精神力は称賛に値します。
(ズジスワフ・ベクシンスキーの場合はその手段が絵画だったということか。)
とりあえず一般的な音“楽”とは全く異質の作品であることは確かですが…。
特に海外を中心に複数のアーティストが似たような作品を
世に送り出しているのですから、需要があるのは間違いないでしょう。
こういう世界も知っているから今日を確かに生きられる。
心に闇があることを否定しないから、己の半身ともいえるそれを時には
客観的に見つめなおし、対話し、うまく付き合っていくこともできる。
私は真面目にそう思います。