若女将コラム

日々西屋と山を縦横無尽に駆け巡る湯守兼若女将の、マイペースなコラムです。好きなものは音楽・写真・自然・宇宙。

閑話休題 ~秘湯の会女将研修会にて③


こんにちは。
少し風邪気味で頭がぼんやりしている若女将です。
昨日久しぶりにパウンドケーキを焼きましたが、
うっかりバターを入れ忘れそうになり
(型に入れる手前で溶かしバターを混ぜるというレシピだった)
危うく失敗するところだった黒ひげ危機一発!



その他ハプニング続出にもかかわらず、結果なかなか上出来のアンビリーバボー(笑)
今回は長男のリクエストで抹茶パウンド。まだまだ練習の余地ありです。



さて、秘湯の会研修会からの話題の続きです。
だらだら続いてごめんなさい次回で最後です(え“)。

今日は日本秘湯を守る会名誉会長である佐藤好億さん
福島県 大丸あすなろ荘)の講演から。

前回のコラムで寒の地獄温泉女将の武石さんの話題を紹介しましたが、
彼女がお客様と接する際に大事にしている「情け」という言葉を受けて、
佐藤さんは、なぜ秘湯なのか、今こそ「情け」とは何なのかが
問われようとしている、と熱く語っておられました。
以下、佐藤さんのお話をまとめてみました。

①戦後失われたもの

佐藤さん
「戦後の食糧難時代、人々が求めたのは「物」であり、現場からの脱出希望、
違う世界への憧れを強く抱いていた。しかし時代が変わり物が豊かになると、
今度は“人間の幸せ感”が薄れていってしまった。
人は本質的に欲にキリがない。特に情報が極めて発達した現在、
情報技術の粋であるスマホやタブレットは、かつて人々が自分の目や
足で求めていた夢や希望をどうも見せてしまいすぎているきらいがある。
今後さらにそれはエスカレートするだろうし、世界の中で「秘湯」と
呼ばれる場所が失われていく。
逆に心の中に秘湯や情けを求める心の領域が広がっていくかもしれない。
では秘湯とはなんなのか?情けとは何なのか?」



(文章ばかりでは味気ないので、最近の西屋周辺の写真を無理やり挿入。)

…失われた幸せ感、人が今求めているものは何なのか?
佐藤さんは、文字通り自問自答しつつ私たちにこうやってよく問いかけます、
そして、敢えて狭義に答えを明示しません。方向性を示すだけ。

つまりそれは、秘湯の宿を営む個々の担い手に託された恒久の課題というわけです。

何をお客様が求めているのか?
豪華な食事なのか?非日常を味わえる設えなのか?絶景露天風呂か?
佐藤さん曰く「究極のものが求められようとしている」。
→これについての私なりの答えは次回のコラムで(なんだとー!)!

②温泉文化の継承の大切さ


(三十三観音の出口で薄日が差した瞬間。)

佐藤さんは、秘湯の宿を取り巻く現状として人手不足も挙げられました。
まぁ、今は業種問わず生産人口の減少が社会問題化していますが。
秘湯の宿は往々にして小規模で、企業といえる大旅館に対してあくまで
「家業(家族+αで細々切り盛りするサイズ)」に過ぎません。

温泉宿は、人が生きていく上でなくてはならない、
価値のある事業を数代にわたって継承している…
しかし実際は、効率性や利便性を求めるあまり、地域に根を下ろし、
世代を超えて受け継がれてきた文化を守る意義についての教育がなされていない、
と佐藤さんは指摘しています。
現在秘湯の会員宿でも人手不足以前に後継者の不在に悩む宿さんも少なくなく、
いずれは会員の件数も激減するだろう、と予想しています。

今回の研修で先輩の皆さんの話を聞いてから、
私は少しでも将来の道が開けるようにと、子供達に積極的に仕事を手伝わせたり、
自分の働く姿を積極的に見せたりする小さな取り組み始めました。
まだ小学生だし、実際に継ぐかどうかはその時に考えればいい。
自分が何を守っているのか、何のために旅館を営んでいるのか、
それはどういう仕事なのかを身を以て教えることが大事だと気づいたのでした。


③地熱開発のこと

佐藤さんが今最も力を入れているのが、
地熱開発への抑止力としての活動です。
東日本大震災後、代替えエネルギーへの需要から、中央の電力会社が
日本各地の温泉地をターゲットとして積極的に地熱開発に
傾こうとしています。既に群馬県・栃木県(川俣温泉)では
試験掘りが始まっているとか。特に配管に心配のない休火山がターゲットに
なりがちなんだそうです。
こんな時行政に対するパイプ役がいなければ、温泉地を守る旅館にとって
死活問題であるはずの地熱開発に規制をすることができない!という考えから、
佐藤さんは行政交渉の最前線に立っているわけです。

佐藤さん
「「旅に寄り添う、秘湯は人なり」という秘湯を守る会のコンセプトは、
単なる理念ではなく、現場や先祖代々守りついできた文化遺産(温泉も含む)の
上にある。日本全体の環境保護のためにも、日本秘湯を守る会は必要である」

そうして、自らの旅館の仕事と東京での責務に忙しく往復しながら、
日本全国167軒の秘湯の会の宿の代表として頑張っておられるわけです。
数年前には本も出版されました。その苦労と努力にただただ頭が下がります。

ところで、なぜ地熱開発が旅館にとって死活問題になるのか?
それは温泉そのもののあり方にあります。

温泉は、複雑な自然条件が重なって地下深くから湧いてくる
貴重な自然の恵みです。最近では、これまで考えられていた海中ではなく、
地上に温泉が湧きだしていた場所こそが生命発祥の地だとする有力な学説もあるくらい、
太古から存在するものです。しかし、温泉の生まれた地球の内部のことについては
まだわかっていないことも多いのが現状です。
にもかかわらず、費用対効果が低いと言われる地熱開発を無計画に推し進めるのは
色々な意味で非常に危険であると佐藤さんは警告しているのです。
つまり、
地熱開発によって地下水の流れが変わり温泉の湧出が滞る
→旅館が営業できなくなる
→既に限界集落である温泉地に人が住めなくなる
→同時に原生林の守り手がいなくなる→地域文化の崩壊、温泉文化の崩壊

皆さんが心の中で求めている「情け」「秘湯」「癒し」を提供する
宿の提灯が消えてしまったら…その先誰が、
失われた人間の幸せ感を満たすことができるのでしょうか??(続く)



そしてCMのように乱入してくる今日の一枚(笑)
もうこのシリーズにこのコーナー要らないんじゃ…やっぱり必要だ!(笑)

Kiasmos "Kiasmos"(2014)

(↑画像をクリックするとアーティストサイトにリンクします(英語))

ポスト・クラシカル界で大変有名な若手作曲家オーラブル・アルナルズと、
ブラッドグループというバンドのJanus Rasmussen(ヤヌス…読み方分からない!)
のアイスランド発ユニット:キアスモス(Kiasmos)のファーストアルバム。
エレクトロニックとクラシックを足して2をかけたような透明感あふれる
サウンドの素晴らしさはもちろんですが、2曲目のHeldのPV↓がとても素敵。


(↑このコラムではどうもYoutubeのリンクを直接貼れないみたいです。。クリックで
PVにリンクします)

無限に形を変える煙のような揺らぎに光を当てて、
その変化を緩やかに追いながら心も一緒に宙に舞っていきそうな
不思議なサウンドがなんともいえません。
底知れぬ温泉の神秘をイメージしてチョイスしました。
アルバムの他の曲も実にお薦めです。