若女将コラム

日々西屋と山を縦横無尽に駆け巡る湯守兼若女将の、マイペースなコラムです。好きなものは音楽・写真・自然・宇宙。

音のある生活 11 「Jerusalem 平和への讃歌 」




(半年前、白布はこんな景色でした。まるでウソみたい(汗))

一体いつから!?
最早カウントする気にもならないくらい暑い日が続いていますね。
皆さん忘れずに水分補給を続けていますかー!?

森の草木にとっては試練の夏、裏の沢はもちろん、
最上川源流も水量が激減しています。枯渇しないのが奇跡に思えるほど。


(↑上杉神社で育てられているスイレン。7/11撮影。美しい花が咲いていました)

半年もしないうちに写真のような冬が再びくることは分かっているのですが、
いっそ今来てくれ!と思いたくなる。
というわけで白布も真夏の日々です(30度はぎりぎり切っていますが…)。
せめて写真で涼んで下さいませ。。



さて、久しぶりに「音のある生活」シリーズです。
自分で言うのもおこがましいのですが、
このシリーズになるとほんとマニアな予感しかしない(笑)

今日ご紹介するのは、カタルーニャ(スペイン)出身の
ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者にして指揮者・作曲家、
ジョルディ・サヴァール(Jordi Savall i Bernadet)が2009年に発表した
壮大な歴史音楽絵巻「エルサレム~二つの平和の都市:天上の平和と地上の平和」です。


"Jerusalem - La ville des deux Paix"(2009)

ジョルディ・サヴァールは、長い間歴史に埋もれていた古代~近世古楽の
再発見とその保存・演奏に長年取り組んできた音楽史の功労者。
彼が世に送り出したCD・音楽はかなり膨大な量で、私も全部は聴ききれていません。
氏がプロデュースしたアンサンブルグループ・エスぺリオンXXI(名前カッコよすぎ!)
演奏によるルネッサンス~バロック期の時代の音楽が多めですが、
広く中東~アジア圏の音楽史に残る楽曲やその演奏家との交流による
コンセプトアルバムも複数手掛けており、そのどれもが傑作・大作揃い。

例えば日本史でも有名な宣教師フランシスコ・ザビエルの足跡をたどった
「イスパニアと日本の対話(2011)」では、聖歌やルネサンス楽曲の他
琵琶や尺八といった日本古来の楽器や能楽が登場。ザビエルが旅した当時の
世界を物語のように描いていますし、
今年初めに発売された「Venezia Millenaria(ヴェネツィア千年紀)」では、
イタリアの古都ヴェネツィアにまつわる音楽をビザンツ~バロック時代から
pick up(ヴィヴァルディも入ってる!)した記念碑的な一枚です。
歴史が好きな人なら尚更聴き応えがあるはずです。

さて、今回ご紹介する「Jerusalem」。
文字通り、神話から続く古の都エルサレムの長い歴史を
“平和”というコンセプトでまとめた2枚組の長編アルバムです。

序曲となるファンファーレはサヴァールの作曲とされていますが、
世界最古の町と言われるエリコ(現ヨルダン川西岸地区)の名を冠しており、
紀元前1200年頃の曲が元ネタのようです。
しょっぱなから旧約聖書の時代にタイムスリップ。

アルバムは2枚組ですが、全体では7部構成になっており、
1.天上の平和:黙示録と審判の預言者たち
2.エルサレム、ユダヤの都市 BC1000-AD70
3.エルサレム、キリスト教の都市 AD326-1244
4. エルサレム、巡礼の都市 AD383-1326
5.エルサレム、アラビアとオスマン・トルコの都市 AD1244-1516
6.エルサレム、避難と流浪の都市 15-20世紀
7.地上の平和:義務と希望

歴史をたどりながら、エルサレムに寄せるさまざまな人々・
民族の思いを演奏しています。

とにかく民族色、宗教色豊か。古楽器あり、ヴードあり、コーランあり、
グレゴリオ聖歌ありetc…
もちろんサヴァール本人も指揮を兼ねてヴィオラ・ダ・ガンバで参加しています。
彼の奏でる素朴な音色が不思議に民族楽器と調和し、
遠い異国の世界を
見事に表現しています。
また、途中には朗読も入っています。それもただの読み聞かせではありません。
タルムード(モーゼが伝えたといわれる、十戒とは別の律法)の一部を
ヘブライ語で朗読したもの、
十字軍のエルサレム進軍に際し、時の教皇ウルバヌス2世が寄せた言葉を
フランス語で読み上げたもの、
ムハンマドがメッカからエルサレムを訪れた際の一節をクルアーンから
アラビア語で詠唱したもの…

実際何と言っているのか分かりませんが、ただならぬ言葉のパワーを感じます。
エルサレムにかかわる作者不詳の器楽曲も多数取り上げられており、
よく編集したなぁと感心するばかり。

第6部の最後では、その美声と歌唱力からナチスの温情を受け、ホロコーストを
生き延びたというユダヤ人歌手:シュロモ・カッツが1950年に歌った
アウシュビッツ犠牲者の鎮魂歌の貴重な録音も収録されています。
(朗々としていますがとても哀しげな歌声です。)

中東地域の歴史を深く掘り下げた書物は数あれど、エルサレムという
未だに難しい民族問題を抱える都市を巡ってここまで色彩豊かに
まとめあげた音楽作品は他に類を見ません。

最終章となる7部では、複数の言語で祝詞のような平和への誓願、
そして中東の古典声楽であるガザル(Ghazal)の一つが歌われています。
一つの旋律を、それぞれの民族の皆さんがそれぞれの言葉で朗々と歌うのです。
元ネタは古典的な恋愛叙事詩(詩的様式)ですが、平和への誓願同様
神様へ向けた内容らしく、特に宗教色の強い曲を選んだのでしょう。
アラビア語、ヘブライ語、アルメニア語、ラテン語、ギリシャ語、
ラディーナ(ごく限られた地域で使われているユダヤ系の言葉)…
これらの歌声が各地の楽器演奏をバックにまとまっていく様は荘厳極まりありません。
最後の「Final Ensemble」で声楽器楽が一つになり、大河のような大合唱に
昇華していく様は、聴くだに激しく魂が揺さぶられます。
最初に聴いたときはあまりの感動で涙が出ました。

…とはいえ実際聴いてみなきゃ雰囲気伝わってきませんよね…
素晴らしいことに8年ほど前のライブの様子を映したYoutubeを見つけたので
リンクします↓


(Jerusalem La Ciudad De Las Dos Paces - Concierto de Jordi Savall - Youtube)
※画像をクリックするとYoutubeにリンクします

全編観ようものなら2時間オーバーのスペクタクルになってしまうので
(珍しい民族楽器&衣装のオンパレードで観ごたえは十分ですが)、
能書きはいいまず結論だ!という方は最後の10分だけでも
ご覧になって見て下さい。口の動きと音楽がちょっとずれてたり、
CD版と多少編曲が違っていたりしますが、
雰囲気は十分伝わってくると思います。

既に故人となった音楽家もいるわけですが、この讃歌が末永く歌い継がれ、
エルサレムだけではなく、戦火の絶えない地、今の世に生きる人々の
全ての心に希望と平和が高らかに光り輝くことを願わずにはいられません。