若女将コラム

日々西屋と山を縦横無尽に駆け巡る湯守兼若女将の、マイペースなコラムです。好きなものは音楽・写真・自然・宇宙。

【湯守シリーズ】3


前回一息に書ききるつもりだった湯守の日常模様。
文字数にして結構なボリュームになってしまい(自分が一番驚いてる(笑)!)、
急きょ前編と後編に分けました。
そして肝心の作業内容に入る前に前編が終わってしまったという。
思うまま打ちこむといろんな意味でこうなります。
というわけで今日は【後篇】


2-3-2自然の中で365日

前回までのあらましでほぼお分かり頂けたと思いますが、
源泉はともかく山水はポンプなど機械を通さず、自然の重力に任せて
受け取っているものです。ただ混ぜればいいというわけではありません。
その日の気温、天候、昼夜の温度差、沢の水量(水圧)、
さらに夏と冬で温度と量が変わる源泉(注1)を鑑みつつ、
水量を加減し、適温にしてあげないといけないのです。
湯枡のそばまでやってきた水を実際に混ぜるには主に3つの方法があります。

1…貯水槽パイプから直接ホースを渡す方法
2…水回りをいつもメンテナンスして下さる業者さんが去年付けてくれた沢からのホース
3…お湯の枡のとなりにある小さな水槽からバルブで直接滝風呂に水を渡す方法


パイプから出る水をどのくらいの太さのホースで升に引くか、
また水路わきのバルブをどのくらいあけるか、水の出し方は何通りにも
組み合わせることができます。
またホースも滝風呂に抜ける出口付近まで伸ばすor離すだけでも、
水圧によってはかなりの温度差を付けることができます。
この複数の水の通り道を制御することで、湯滝風呂を適温にしています。
言葉で羅列すると自分でも「何だこれ複雑だな(苦笑)」。
実際は経験と勘(と温度計)を頼りに行っていることで、
決して頭をひねって苦戦しているわけではありません。




(3月末。今年はまだですが、フキノトウの次に葉を延ばすのがスイセンです。)

(前回もご紹介したキクザキイチゲ。沢のそばに咲く。5月上旬撮影。)


(新緑の沢。お薬師堂の脇を通り湯枡まで流れてくる。5月下旬撮影。)

春は一番温度調整しやすい季節です。
花や新緑を愛で、時に山菜を摘みながら、お日さまの光を一緒に浴びて…
ただただ幸せを感じます。
ただし昼夜の寒暖差はかなり激しいので、温度管理は決して気を抜きません。




(白布の夏の夜は本当に涼しい。真夏でも気温は20度を切る。)



(今回も登場のこのホース図。4と5にも注目!)

夏は年によっては雨との戦い、またある年は水不足との戦いです。
一番悲惨だったのは去年の夏。写真のように深刻な水不足の時は、
すべてのホースをお湯の出口ぎりぎりまで運んで水量を確保しました。
(一つでもはずれると大惨事)
のように、やむなく源泉を沢に横流ししたこともあります。
勿体ないのですが、湯量が豊富な証拠でもあるわけです。
逆に夕立が来るとあわててホースを抜きに行ったり。
意外とこの時期活躍してくれるのが秘密の補助ホース4と5。
熱い夏に真冬並みの温泉温度では一気に疲労感が身体に出てしまい、
非常に健康にもよろしくありません。程よく小汗が出て、
20度を切る夜でも寒くならない体感温度を目指す(凝りだすと止まらない)毎日です。




(秋たけなわの沢。容赦なく頭上から落ち葉が降り注ぐ。)

秋はひたすら落ち葉との戦いです。
前回のコラムで「貯水槽経由パイプは水量が「わりと」安定している」
と書きましたが、秋はその落ち葉の大群のために「わりと」が
通用しなくなることしばしば。
沢から貯水槽への分岐点は30×50センチほどの水路になっており、
さらにその先に直径10センチ弱の取水口があります。秋はここが
落ち葉で容赦なく埋もれます。さらに台風が加わってくると、もう大変。
一度葉を取り除いても30分後には渡していた網に大量の葉が再び詰まり、
ダム状態になります。当然山水は止まり、お風呂は源泉並みの温度に。

それを防ぐべく山へ向かい、落ち葉を取り除くと、今度は湯枡の隣で
こんな現象が↓発生します。


(取水口の落ち葉を取り除いて約10分後。それまで完全に止まっていた
山水はその勢いを取り戻す。というか、既にかなりの水量。)



(さらに5分後。渡していたホースをすべて弾き飛ばす勢いで
水路から水があふれ出す。湯枡も私も水浸し…。)


おそらく貯水槽→裏山→出口までの高度差による水圧の加減でしょう。
これで何度重石をかけて固定していたはずのホースが吹っ飛ばされたことか。
それでも水がやってくることの方が遥かにありがたいのです。
当然ながら山へ行く回数は他の季節の比じゃありません。
朝6時前、10時、12時、16時、夜(天気による)…
最低このくらいは三十三観音に登らなければ、お客様が大変な思いをしてしまう。
水をかぶろうが、落ち葉つぶてを食らおうが、使命感にひたすら燃える秋であります。


さて、一番温度管理が大変なのは冬です。


(秋は水大爆発だった水路も、冬になるとこの通り氷に閉ざされる。)

西屋のお風呂をご利用された方ならご存知だと思いますが、
湯滝風呂は内風呂ながら開放感のある上下吹き抜けの構造になっています。
夏場は日照りでも水量さえ確保できれば(そして天気と昼夜の温度差に注意していれば)
さほど調整に困ることはないのですが、冬はまず山の状態が激変します。
(既出ですが真冬の三十三観音脇の沢。葉も氷も埋もれてとても掘れない。)

沢は完全に雪の下に隠れ、真冬ともなると-15度近くまで気温が下がり、
沢自体が凍ったり表層雪崩で流れがせき止められ、
完全に水が来なくなてしまうことも珍しくありません。
大雪に埋もれた三十三観音の水場に行くこと自体重労働になります。
(そもそも沢まで行くのが大変…夏ならあっという間に軽トラで乗り付け
られるのに、冬だと掘って進んで1時間弱かかることも)


(沢や取水口がある水路はこの穴の下2mほどの場所。あたりを付けて掘りあて、
果敢に降りる!)


(湯船から吹き抜けを仰ぐ。2月の昼間撮影。)

そしてお風呂場も吹雪の夜など雪が湯船まで勢いよく降ってくることもあり
とても寒くなります。湯量もわけあって減ります(注1)
そんな時にお風呂が熱ければもちろん入れないし、
逆に最初から凍結を心配して加水しすぎると、石造りの湯船が温泉を
余計に冷ましてしまい、これも塩梅が悪い。そこをすべて見越して、
冬でも安心して浸かり、冷えた身体を十分にあたためることができるような
温度に保つことは、実はものすごく大変です。


(早朝の湯枡。冬は6時を過ぎてもまだ真っ暗。)


ちなみにお客様に適温といわれる温度を測ってみると、
冬場でおよそ41度前後(夏は40度弱)。裏の枡は上記の温度差を考慮して
44-45度ほどに調整します。ただし気温が-3度以上、あるいは-10度を切る場合は
この温度差をさらに変えなければなりません。
いろいろ検証してみましたが、経験上この温度がおよそベストのようです。


(大活躍の湯温計。S様ごめんなさい!毎日重宝しております…!)

最初のうちは真冬でも手袋をせず感覚をたよりに調整していましたが、
冬は手がかじかんでいたせいか長く源泉に素手を入れているうちに
火傷を負ってしまい、その反省から、今はお客様が以前忘れていかれた
湯温計を有り難く(そして勝手に!!)使わせていただいています。
注1…白布温泉は、冬季(11月終~4月中頃)の間、
温泉街のロードヒーティングのため山形県に一部源泉を提供しており、
その間だけ通常の湯量が3/4~2/3ほどに減ります。もともとの湯量が
豊富なため、年に何度もお越し下さる常連のお客様でもあまり
気付かれることはないくらいですが、温度調整上考慮しておかなければいけないことです。

(凍てつく朝の空模様。この静寂の時間が本当に好き。)

いつも念頭に置いているのは、お客様が滞在中いつでも気持ちよく
お風呂に入っていただけること。温泉旅館なので、
夜はお客様がお酒が入った後に入浴されることがほとんどです。
夜のお風呂の温度はややぬるめにして、頭に血が上らないように
(まじめな話)気を付けています。一方朝は目覚めの時間。
起きてすぐお客様はお風呂に入られるので、若干温度を上げて、
すっきり上がれる感覚を味わえるように温度調整を心がけています。
(もっとも、調整の都合でそれが逆転してしまったり、うまく
いかなかったりすることもあります。温泉も水も本来人の手で制御されない、
してはいけないもの。あくまで“目指す”のが限界です)
それも、季節ごとにその温度をほんの少しずつ変えながら。
いずれにしても、「うーん…熱いい~…」にはならないように注意しています。
温泉旅館にお泊りにいらっしゃるお客様なのだから、
お風呂が嫌いなわけがありません。
ゆっくり長湯できるぐらいが健康にもメンタルにもちょうどいいというのが私の考えです。
次回は総括です。